痛風の激痛を忘れた男

突然ですが、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざをご存知でしょうか。
あれは人類の歴史が生んだ教訓などではなく、まさに今の私のような愚かな人間のために作られた言葉に違いありません。
ほんの半年前、私は両足の親指を抱えて自宅の床を這いずり回っていました。
風が吹くだけで、いや、両足の親指がミリ動くだけで絶叫が漏れる悪魔の病気、痛風発作です。
あの時は「神様ごめんなさい!もうお酒は一生摂取しません!毎日青汁と白米だけで生きていきます!」と、本気で涙を流しながら誓ったのです。
それなのに、痛みが綺麗に消え去った今日この頃。
私の目の前には、なぜか冷え切った強炭酸のハイボールが鎮座しています。
おかしいですね、タイムスリップでもしたのでしょうか。私の記憶が正しければ、アルコールは、痛風患者にとっては「一撃必殺の禁忌」のはずです。
しかし、ここで言い訳をさせてください。
「ビールはプリン体が多いからダメだけど、ウイスキー(ハイボール)なら蒸留酒だからプリン体ほぼゼロでしょ?」という、
痛風界隈ではお馴染みの、都合の良すぎる免罪符を脳内で発動させてしまったのです。
「飲み会に行かず、大人しく自宅で飲んでいるんだからセーフ」という謎のルールも追加されました。
プシュッと炭酸の缶を開け、乾ききった喉に注ぎます。
その小気味よい音が響いた瞬間、私の脳内にある危機管理センサーは完全に強制終了しました。
「アルコールで消毒すれば、むしろ尿酸値に勝てるのでは?」という、医学の常識を根底から覆す天才的なひらめきと共に、
黄金色の液体を喉に流し込みました。
プハァー!最高!…と至福の吐息を漏らした直後。
右足のくるぶしが「ピキッ…」と、内側から不敵なウインクをしてきたような気がしました。
気のせい、気のせい。これはきっと、ハイボールの炭酸が体内で弾けただけのはず。
喉元を過ぎた熱さは、大体さらに大きな激痛となって戻ってきます。
翌朝、左足のくるぶしに違和感を覚えた。不吉な脈動。やがてそれは、心臓の鼓動に合わせて万力で骨を砕かれるような激痛へと変わった。風が吹くだけで痛いというが、実際には風どころか、立ち上がれない… 一歩も歩けない…。
布団の重みさえ耐えがたく、私は闇の中でただ脂汗を流し、自分の不摂生を呪った。
這うようにして病院へ向かった。主治医の「またやっちゃいましたね」という言葉が、あからさまな軽蔑の視線が腫れ上がった患部よりも深く心に突き刺さる。プリン体とアルコール、そして何より「自分だけは大丈夫」という根拠のない過信。この痛みは、体が悲鳴を上げて警告しているのだ。
今度こそ、喉元を過ぎてもこの熱さを、この痛みを忘れないと誓った。私の足元には、まだ消えない鈍い疼きが残っている。

(2026.6.19  営業.高瀬)

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